KeyHolderの組織図KeyHolderの組織図

 秋元康さんのノドに刺さった小骨のような存在、KeyHolder社(銘柄コード4712、JASDAQ上場)が15日、急騰した。

 この日、朝方から買い注文が殺到し、値幅制限いっぱいの前日比30円高の120円で取引を終えた。取引時間中では3月13日に年初来の最安値46円をつけていたが、わずか2か月で、その水準から2.6倍になった。

 【前日、驚きのニュースリリース】
 リーマンショック以上の新型コロナショックに見舞われてきた株式市場。最悪期は脱したようにも思えるが、まだまだ先行きは不透明。そんな中、なぜこの銘柄が急騰したのか?

 理由は明白だ。前日(14日)、同社は「株式会社ノース・リバーの全株式取得に向けた基本合意書締結に関するお知らせ」というニュースリリースを公表した。この内容を好感し、一気に買いが集中したのだ。

 リリースは、女性アイドルグループ「乃木坂46」の運営会社である「乃木坂46合同会社」(以下「乃木坂46LLC」という。)の持分の50%を保有する、株式会社ノース・リバーの全株式を取得することで基本合意した、との内容だった。(乃木坂46LLCの残り50%はソニーミュージックの子会社が保有している)

 ノース社の株主構成は以下のとおりだ。

  • 秋元康 … 45%
  • 京楽産業 … 35%
  • AKS(現ヴァーナロッサム) … 15%
  • 秋元伸介 … 5%

 秋元兄弟が50%を保有している。
 取得予定日は7月1日、その結果、「乃木坂46LLC」はKeyHolder社の持ち分適用会社になるという。

 ニュースリリース

※持ち分適用会社 親会社が議決権の20%以上50%以下を所有する会社など。
なお、議決権比率50%超(40%超で要件を満たす場合もある)は連結子会社とされる。

 つまり、キーホルダー社は女性アイドルグループ「乃木坂46」の利権を、この先、ソニーミュージックと二分するというわけだ。白石麻衣の卒業公演(と卒業自体)が延期になったのはコロナの影響だと思ってきたが、この買収案件が水面下で進んでいたことも無縁ではなかろう。

 

卒業延期を発表した白石麻衣(乃木坂46HPから)、コロナだけが理由だったのか?

【乃木坂ブランドが秋元兄弟を救うか】

 「秋元康の憂鬱」とのタイトルで過去に7回記事を書いてきた。

 秋元さんを憂鬱にしたワケは、KeyHolder社が発行した“時限爆弾つき”新株予約権の罠にはまってしまったからだ。
 再度、この「新株予約権」の概要をおさらいしておきたい。

【時限爆弾が作動中】
 KeyHolder社は2018年6月18日に「第三者割当により発行される新株予約権の募集に関するお知らせ」と題するプレスリリースを公表し、新株予約権32万294個、総額3202万9400 円(新株予約権1個当たり 100 円)の発行(割当日は7月24日)を決議したことを明らかにした。

 行使価額は125円、全株行使されると、約40億円となる。そして、発行先として以下の3名の名前を公表した。

 ◇秋元 康氏 250,666個(2506万6600株)同日、KeyHolder社特別顧問就任
 ◇秋元 伸介氏 55,703個(557万300株) 秋元氏の弟
 ◇赤塚 善洋氏 13,925個(139万2500株)秋元氏のブレーン

 この新株予約権が“時限爆弾つき”というのは、

 「株価終値が一度でも行使価額に50%を乗じた価額を下回った場合、新株予約権者は残存するすべての本新株予約権を行使価額で行使期間の満期日(2028年7月23日)までに行使しなければならないものとする」と定められていたから。

 株価が終値で62.5円を下回ると、全株をその倍、125円で否応なく買わなくてはいけない。そして、コロナショックの激震の中、同社株は2月28日に62円をつけ、時限爆弾が作動し始めたのだ。すなわち、期限内に強制執行されることが決まったのだ。

 秋元氏分は約31億円、秋元弟は7億円。二人合わせて約38億円にのぼる。

 ちなみに同社は12日に、2020年12月期の第1四半期決算を発表しているが、赤字である。

  •  売上高 3,275
  •  営業利益 ▲144
  •  税引前利益 ▲177
  •  税引後利益 ▲165

     (単位は100万円)

 自分が創業者でもなければ、社長でもない、赤字企業のボロ株に秋元兄弟は38億円もぶちこまないといけないのだが、さすがは秋元先生、この窮地で「乃木坂カード」を切ってきた。

【SKEは30億円だったが、乃木坂は?】

 

 気になるのは、KeyHolder社が乃木坂ブランドの半分の利権を手にしているノース社を一体、いくらで買収するかだ。

 ひとつ参考になるのは、2018年11月、KeyHolder社が「SKE48」を30億円で買収した前例。優良ビジネスとされた「SKE48」は2017年11月期実績で売上高21.5億円、営業利益3.6億円をあげていた。つまり営業利益の8.3倍が買収価格だった(高すぎる!との声もあった)。

 M&A専門家がデューデリジェンスするんだろうが、開示された資料からノース社の純資産は56億円、営業利益は25.68億円(2019年11月期実績)だったので、安くてPBR1倍の56億円、高くてSKEのケースと同じ、営業利益8倍にあたる200億円の範囲なんじゃないか。

 仮に「100億円」とすると、秋元兄弟には50億円。そこから譲渡益税2割を引くと、だいたい40億円くらいになる。KeyHolder社の新株予約権につぎ込まないといけない金額38億円と、ほぼ“往って来い”になるので、このあたりが落としどころとして都合がいいんじゃないか、と想像している。

 このスキームなら当面、秋元先生のフトコロは痛まない。こちらが「憂鬱」と勝手に書いたけど、策士の秋元先生には全然余裕だったのかもしれない。

【秋元商法、ホントに大丈夫?】

 ただし、KeyHolder社の業績は、乃木坂46の人気に大きく左右される構造となる。
 しかも秋元アイドルの接触商法(キャバクラ商法)の根幹、「握手会」がコロナショックで揺れている。コロナが収束したとしても、これまでと同様に「握手会」を実施できるかどうか。
 
 また、「握手会」参加のために(不要なほど多くの)CDをオタに買わせることへの疑問が噴出している。聞いた話だと、1人で500枚のCDを購入する猛者もいるらしい。
 しかし、これってエコじゃない。

 僕らの世代だと、仮面ライダースナックに入っているカード欲しさにスナックを買ったが、欲しいのはカードだけだったので、スナックは捨てる子供が続出し、社会問題になった。秋元商法はほぼ同じ仕組み。音楽業界を食わすため、という大義はあったけど、いつまで通用するだろうか。

 やはり秋元先生には「憂鬱」になってもらうしかない。