前回、アイドルグループ「櫻坂46」の1stアルバム「As you know?」(8月3日発売)のリード曲「摩擦係数」のミュージックビデオ(MV)が200万再生を突破したことを書いた。

 そのさい、同グループのMV再生回数を調べてみた(表題曲4曲、カップリング曲8曲)。
 
1.なぜ 恋をして来なかったんだろう? 1058万
2.BAN 914万
3.流れ弾 698万
4.Nobody’s fault 675万
5.Buddies 435万
6.五月雨よ 429万
7.無言の宇宙 359万
8.偶然の答え 344万
9.Dead end 334万
10.思ったよりも寂しくない 327万
11.僕のジレンマ 189万
12.車間距離 100万

《意外に伸びなかった「五月雨よ」》

 改名&再デビュー後、4枚のシングルをリリースしてきたが、なぜ恋 (1stシングルカップリング)、BAN(2ndシングル)、流れ弾(3rdシングル)、五月雨よ(4thシングル)…と、徐々にMV再生回数が落ちていることがうかがえる。無論、「MV再生回数」だけで判断するのは危険だが、ひとつの手がかりにはなると思う。個人的には、「五月雨よ」の曲調が好きなので、この位置(6位)は意外だった。私が運営のひとりなら、いささか危機感を覚えるかもしれない。

 
《「摩擦係数」で再び“僕”が…》

 安倍元首相の暗殺事件の影響で、「摩擦係数」のMV公開(当初の予定は7月8日夜)は一時延期になったものの、5日後の同13日(22:00)に無事公開された。


はじめて聴いたときの、私自身のリアクションは「おいおい、また“僕”が出てきたか…」。
欅坂46時代の楽曲の主人公は「僕」だった。大人への反抗、社会への反逆、孤独、たとえ一人でも意思を貫く姿勢を表現し、アイドルの枠を超えた存在として、今なお、輝きをはなっている。
だが、一方で現実社会のなかで生きる私たちには、「僕」の主張があまりにも未成熟、ときには幼稚に感じ、「もううんざりなんだよ」と秋元氏の歌詞に毒づきたくなることもあった。5月に卒業した1期生の渡邉理佐(17歳でグループに入り、7年アイドルとして活動した)も、成長するにつれ、「僕」の世界観を表現するのが難しくなったという趣旨の発言をしていた。
櫻坂46では、メンバーの年齢に合わせ(未成年メンバーは2人だけ)、以前より成熟した主人公像を描いていくものだと思っていた。
だが、「摩擦係数」では明らかに「僕」路線への回帰を図っている。
グループ全体で“櫻坂らしさ”を模索してきた2年近く、外番組への露出も増え、それなりに実績もあげてきたと思えるが、櫻坂ブームを巻き起こしたとまでは言い難い。王道アイドル路線では、乃木坂46の前で勝ち目がない。運営サイドからすると「夢よ、もう一度」と、「僕」路線回帰で勝負に出てみたいと考えても不思議はない。

 《テーマは「野生 × 理性」なの?》

 メンバーの土生瑞穗はブログで「作品上では森田が表現する野生、山﨑が表現する理性に注目してご覧いただけたらと思います」とMVのテーマを解説している。「摩擦係数」では森田ひかると山﨑天が「ダブルセンター」を務めている。

はぶちゃんのブログから


 
 Buddies(櫻坂46のファンの総称)の方たちが、いろんな角度からMVを考察、解説してくれている。アイドルとして珍しく今回ブレイクダンスが取り入れられ、現役ダンサーさんたちから専門的な解説が聞けたのも興味深かった。また「音が変!」と音楽専門家から声があがった。「たしかに…中央の音が薄っぺらいかも」と、イヤホンを何種類も変えて、聴き直したりもした。

 フロイトの構造論で、人間のこころが「イド(id)」「自我(ego)」「超自我(super-ego)」の3領域に分かれていることを念頭に置きつつ、今回のMVを解説する映像作家さんもいた。ほかにも、「摩擦」に関する科学的考察を教えてくれる動画もあった。それによると、摩擦係数は「0」と「1」の間の数字。MVでは1時ちょうどに踊り始めるが、「なぜ1時なのか?は、摩擦係数を超えたところだから」との考察に「なるほど!」と頷けた。

 私自身は、テーマ(野生×理性とされる)に疑問を感じている。私が映像クリエイターなら、こんな手垢のついた問題意識をテーマにしない。
 振り子が揺れている。なにかの2つの間で摩擦が生じる。
 それを表現するのが彼女たちなら、「欅坂46」と「櫻坂46」の2つの摩擦こそ隠されたテーマではないのか?
 天ちゃんが表現する櫻イズムと、るんちゃんが表現する欅イズム…。

 《ゆっかーのあくびの理由》

 途中で、ピエロが出てくる。あれは平手友梨奈かもしれないと思っている。以前、てちが“ジョーカー”のようなメイクをしている未確認の動画(幻の9thシングルMVとうわさされていた)を見たことがあった。
 まつりちゃんやゆっかーたちが硬い表情で椅子に座っているシーンは、シングルの選抜&フォーメーション発表を彷彿とさせる。そこで“あくび”をしてしまうゆっかー。「センターはてち」という予定調和に飽き飽きしていたのか、それとも「黒い羊」以降、シングルを出せなかった、かつてのグループの停滞状況を表したかったのだろうか。

 《欅曲解禁の予兆》
 MVでは、いつまでも振り子が揺れ続ける。2つの流れ(表向きのテーマは野生×理性だが…)は一つに偏るのではなく、2つが共存する。
 欅坂46のラストライブで、涙とともに最後のパフォーマンスを披露した現・櫻坂46の1期生・2期生たち。改名後、欅坂46の楽曲は“封印”されてきた。だが、理佐の卒コンで「二人セゾン」など一部の楽曲が復活披露された。

理佐卒コンのセットリスト
理佐卒コンのセットリスト

そして、今回のMVが指し示した「共存」。
すなわち、欅坂46と櫻坂46は互いにリスペクトしあいながら共存していい、欅坂46の楽曲の封印が解かれる日も近い、と予告していたのではないのか。

コロナ感染で幻となった「W-keyaki Fes.2022」では欅坂46の代表曲(サイレントマジョリティー)が披露される予定だったのではないかと考えている。