先日、ネットニュースを見ていて、「これはないよな」と暗澹たる気持ちになった。

 どこのメディアかは伏せたいと思うが、不倫スキャンダルで活動自粛しているアンジャッシュ渡部建(47)がレギュラー出演していた「行列のできる法律相談所」が放送され、不在の渡部の代わりに、恒例の“告知”コーナーを女性タレントと思われる“天の声”が務める一幕があったと記事になっていた。

 番組の演出を、そのままニュースとして扱うのにも違和感を感じたが、同メディアは、この匿名の天の声について、お笑いタレントのフワちゃん(26)と特定する声が多く上がっていたと報じた。

 たしかにしゃべり方などからフワちゃんそっくりと私も思った。ツイッターなどで、「フワちゃんだよね」「フワちゃんぽくない」「フワちゃんだ」という反響があったことも事実だし、一般人が自分のSNSで感想やうわさを書き込むのは自由だし、(万が一、ふわちゃんでなくても、ネット上の発言の)責任を問われることもない。

 でも、メディアは違う。うわさをそのまま垂れ流していいと思えない。「ニュース」だったら、きちっと裏を取る作業をすべき。日テレの番宣担当者、広報などパイプはあるはずだし、一番いいのはふわちゃん本人に直当たりすること。

 この程度の裏取りは、それほどたいした作業じゃない。裏が取れた時点で、ネット上で話題になっていた天の声が、「うわさ通りふわちゃんだった」とニュースにすればいい。一方、裏が取れなかった場合は無理に書く必要がないだろう。

 以前も書いたが、メディアには毎日、たくさんのタレコミ、怪文書、うわさの類が舞い込んでくる。中には「ウソだろ」と思ったものが真実を告発していたり、逆に「本物だ」と思ったものがまったくのでたらめだったりもする。

 自分の思い込みは排除し、ひとつひとつ裏を取る、というのが記者の基本フォームなのだ。愚直にこの基本フォームを繰り返すことで、「誤報」を犯す危険を減らす。また、表面上の事実に見えたその奥に、もっと違う事実が見えてくるということもある。

 今回のケース、事件取材にたとえると、地どり(現場周辺で聞き込み取材をすること)で「あの人が怪しいよ」と聞き込んだ憶測を、裏も取らずにニュースにするようなもの。ネットニュースの現場には記者としての基本フォームが欠如していると思えてならない。

 「まあ、そんな面倒臭いこと言わないで」というエクスキューズがあちこちから聞こえてきそうだけどね。

 事実、冒頭にあげた「ふわちゃん天の声」は、かなり読まれた、反響のあったニュースだった。「裏は…?」なんて口うるさいことを言う人はいなかったし、ネットの読者には支持されていたから、いまどきのネットニュースは、これでいいのかもしれない。

 事実かどうかより面白いかどうか。ニュースのエンタメ化、報道の東スポ化。

 現役のころ、東スポが名誉棄損で訴えられた裁判があった。詳細は忘れたが、記憶だと「東スポが事実を書いていると思うほうが間違い」みたいなことを裁判長が指摘したと時事通信が配信、「さすが東スポ!」と編集局内の記者同士でうなったことがあった。

 タレントさんのエピソードトークがネットニュースになることもある。面白くするため、「多少話を盛ることもある」とタレントさん自身認めているから、“盛られた内容”がニュースになってしまう危険があると懸念されるけど、そんなことに頓着していないようでもある。逆に、トークが短かったり、掘り下げが足りない場合もあるが、そのまま記事にしてしまう。「えっ?補足取材しないの?」と面食らうことも少なくない。

 かつて上司から「おれたちは新聞記者。新聞“話”者にはなるなよ」と戒められた。人脈を自慢したり偉そうに話をするわりに、ちっとも記事を書かない人がいた。 

 「こたつ記事」もときには必要だけど、本物の記者を目指すなら「新聞“話”者」や「こたつ記者」に甘んじちゃいけないと思う。