4周年を迎えたばかりの欅坂46にまたぞろ文春砲が炸裂した。
「文春オンライン」が報じたのは『欅坂46長沢卒業に「いじめファイブ」の影 長濱ねるから続く”脱退ドミノ”次のメンバーは?【関係者告白】』とのタイトル。
【誤報にも特ダネにもなる“怪文書”】
一読したが、「欅坂関係者」という匿名のコメントをつなげて、あたかも取材したかのように装っているだけ。「怪文書」をそのまま記事にしたよう、というのがかつて20年以上記者をしていた私の感想だ。文春は一流メディアだと思うけど、この記事は「お粗末」すぎて情けないね。
新聞社にいると、毎日のように差出人不明の「怪文書」が編集部に送られてくる。怪文書以外にも、ブラックジャーナリズムの人たちからの情報提供も少なくなかった。パッと見てデマとわかるものもあるが、けっこう真実をついていそうなものも、ごくたまにはあった。
余談だけど、あるスポーツ紙が“ゴミ”情報にだまされて選挙関連のデマ記事を書いたことがあった。調べたら「怪文書」マニアみたいなヤツがねつ造した内容を真に受けて、さも事実のように報道していたので、「誤報だ!」と私が紙面で糾弾したら、このスポーツ紙の編集長に呼び出され、「お前には武士の情がないのか」と泣かれたこともあった。
これとは逆に、「嘘だろ?」と思いながら、念のため怪文書の裏を取りに取材を続けると、次々、隠されていた事実が浮き彫りになり、特ダネを手にしたこともあった。怪文書だからといってバカにするわけにはいかないが、記者として大切な基本フォームは「裏を取る!」ということだ。
今回の文春の記事も、骨格は「欅坂関係者」という匿名のリークだ。信ぴょう性は怪文書と大差ないだろう。いかに裏を取っていくかが記者の仕事だ。
【えっ!裏も取らずに書くの?】
記事では、以下のような流れで「脱退ドミノ」が連鎖していると書いている。
- 長沢菜々香の卒業
- 長濱ねるの卒業
- 背景に流れる今泉いじめ問題(再掲)
- キャプテン菅井由香への不満
- 長濱ねる→長沢菜々香→「?」
ざっくり各項目を見てみよう。まずは「1」。
なーこは3月29日に卒業を発表し、2日後、4年間在籍した欅坂を去った。欅坂関係者のリークとして「長沢は昨年の夏頃から卒業について深く悩んでいた」と明かす。悩んでいた理由は、親友だった長濱ねるが卒業してしまい、ぽっかりと心に穴があいてしまったから。つまり「長濱ロス」によって欅坂で活動するモチベーションをなくしてしまった、とした。
ありえない話ではないとは思う。が、じっさいはどうなのか? 「欅坂関係者」のリークをそのまま鵜呑みにするのは危険だ、と考えるのが普通のジャーナリストだ。なーこにも、ねるにも、ほかに、なーこと親しかったメンバーにも接触し、リーク情報の裏を取らないと書けないはずだ。
だが、記事では裏を取った形跡がない。裏も取らずに、よく書けるよなあ。
なーこはブログの更新頻度が一番多かったとコメントで言わせているが、「けやかけ」で集計したときには、同じ1期生の齋藤冬優花に次いで2番目だった。細かいかもしれないが、告発記事を書くときはどんな細かいところ(「てにをは」の助詞さえ)も間違わないよう神経を遣った。ささいなところでも違ったら、記事全ての信ぴょう性にかかわると考えたからだ。その点でいくと、この記事はそもそも取材が甘いと言わざるを得ない。
【コメント、改ざんしてない?】
次に「2」。
可愛いルックスで絶対的センター平手友梨奈と並ぶ2枚看板だったねるは、クイズ番組に呼ばれるなど“外”仕事も多かった。そんなねるがメンバーから「陰口を言われ」、「それを誰よりも近くで見て、悲しんでいた」のがなーこだった、とリーク情報は衝撃的な内容を告げるが、これもまったく裏を取っていない。
読者にあたかも「事実」として伝えるなら、ねる、なーこから証言を引き出さないと書けないはずじゃないか。
なーこの卒業理由にふれた、欅坂関係者のコメントには次のようなくだりもある。
「長濱さんという“味方”がいなければ、欅坂46という”嫉妬”と裏腹の”同調圧力”の空気に満ちたグループの中では潰されてしまう。そういう切実な理由なのです」
欅坂の楽曲の特徴を表現するときに、「同調圧力」という言葉を使ったライターがいたが、喋り言葉のときに、こんな堅い表現をするだろうか? コメントを都合のいいように改ざんしている可能性すらある、と疑ってしまう。
【今泉には取材したのかも】
「3」はかつて報じた今泉「いじめ」問題に関するくだりを再掲載している。ここは、他の部分とは違っていると思った。かなり細かい事実描写があり、裏を取ってないと書けないと感じた。おそらくだが、今泉本人からも取材している可能性が高いと思った。いくつかのコメントのうち、「親友」とされているのが今泉「本人」なのではないか。
かつて吉永祐介さん(元検事総長)に取材したことがあった。ロッキード事件の「特捜の鬼」が検事総長に就任内定したとき、吉永さんの人物評を書くため周辺をしらみつぶしに徹底取材した。
すると吉永さん本人から電話が入った。
「君か?うちの女房まで取材したのは…。(熱意は)わかったから取材受けるよ。(東京高検)検事長室に来いよ。なんでもしゃべるから、正しいことを書いてくれ。ただ、取材受けたことは絶対ナイショだよ。記者クラブの連中がうるさいからね」
総長就任前に、検事長室でたしか30分くらいインタビューした。約束とおり、本人から取材したことは隠し、「周辺」とか「知人」のコメントとして書いた。
過去の取材経験から、「3」はかなり取材した結果と思うが、ただし、それも今泉サイドから見た事実にすぎない。メンバー側や運営側からの取材が欠けているのが、残念だと思った。ものごとの真相は、ある一面から照らしただけではわからないことが多いからだ。
【中傷はやめなよ!】
「4」は、かなりひどい中傷。
キャプテン菅井友香のことを「人望はなかった」、メンバーは「頼りにならない」と不満に思っている、としているが、これも「欅坂関係者」のコメントだけ。
先日、新2期生が「けやかけ」に初登場したとき、ある一人が菅井キャプテンに優しく声をかけられ、感激したと打ち明けていた。また、菅井が朝4時ごろ起きてMC原稿をまとめている姿を以前、同期の1期生が話していた。「そんなに早く起きてまとめても大したMC原稿にならない」と笑い飛ばしていたが、まじめなキャプテンを物語るエピソードのひとつだ。
たしかにお嬢様キャラで、ちょっぴり天然で、滑舌が悪いのをからかわれたりする菅井だが、外部からみても一生懸命さが伝わってくる。「コメント」が優等生的でつまらないのもそのとおりだが、少なくともコメントしようと責任をもっている。強烈なリーダーシップを発揮するタイプじゃないが、出来る限り役目を果たそうとする姿勢は評価してもいいんじゃないか。
菅井批判を展開するなら、だれが、いつ、どのような状況で菅井の取った(あるいは取らなかった)行動に不満を覚えたのか、などという事実をたんたんと積み上げていくべき。匿名のコメントひとつで、菅井は「メンバーから人望がない」と決めつけるのはミスリードだと思う。
【ペンへの冒涜】
最後に「5」。
「(卒業の)連鎖のクサリは長沢のあとにも繋がっているようなのです」として、匿名のリークでは、“ペーちゃん”渡辺梨加の名前をあげた。
「彼女も『なーこちゃんが辞めるなら私も辞める』と卒業を公言するようになった。渡辺さんは長沢さんをとても慕っていた。今残っているメンバーと活動を続けていきたいとは思っていないようです」
ねる、なーこ、ぺーちゃんの3人は優しく控えめな人柄から「ほとけーず」を名乗っていた。うち2人が卒業してしまい、「ぺーちゃん、大丈夫?」「辞めないでよ」とファンから心配する声があがっていたのは事実だ。
だが、ぺーちゃんは先日、ファンに向かって「辞めない」とはっきり伝えたという。ファンの方がツイッターなどで「欅坂で頑張る宣言してるから落ち着いてください」などと報告している。
あっけなく文春砲がデマだったと証明されてしまった。匿名の「欅坂関係者」のコメントだけを鵜呑みにして当事者に取材しようとしなかった文春の失態、ジャーナリストとしては失格と言わざるを得ない。
事実関係を伝える部分が、すべて「欅坂関係者」という匿名コメント。冒頭にも書いたが、なぜ裏も取らずに書き飛ばせるのだろうか。売れりゃなんでもいい、って思っているのか。たしかに、売れないと新聞も雑誌もやっていけない、その事情はわかるよ。でも、裏を取らないことを、事実のように書くなんて「ペン」への冒涜じゃないか。
【闘え、運営!守れよ、運営!】
さて、欅坂46の運営サイドにも注文したいことがある。これまでも文春砲が何回もあったが、いずれも沈黙している。今回も4月13日午前0時すぎ現在、公式サイトに何の反論も掲載されていない。
運営さん、「沈黙は金」じゃないよ!
告発記事を書く際、必ず告発している相手側からもコメントをもらう努力をした。たいていは「ノーコメント」とか「担当者不在でわかりません」とか、ごまかして逃げようとするが、これはこれで満足した。ノーコメントということは、記事を否定しないんだな(つまり認めているようなもんだな)と判断したからだ。
かつて「男は黙って…」というCMが人気だったけど(古いねえ)、記事に対して、絶対に沈黙しちゃダメなんだ。
まずは公式サイトに全面否定するコメントを出すべき。そのうえで、文春に対しては訂正記事や謝罪広告を要求すべき。
それくらいの事態でしょ。大事な商品(欅坂)のブランドイメージを汚されているんだから。
てちがSOLの卒業式で訴えた“言葉の暴力”からメンバーたちを守れよ。それが運営の役割でしょ、と声を大にして言いたい。