記者志願

桜並木

桜並木

 「記者志願」。

 

 ジャーナリスト、斎藤茂男さんの著書のタイトルでもある。共同通信記者時代から社会の矛盾や、弱き人たちの慟哭を僕らに問うてきた真のジャーナリスト。僕は大学時代、斎藤さんの「父よ母よ!」を読み、新聞記者を目指した。なりたての「記者ポッポ時代」は文章がへたくそで「どうしたら斎藤さんみたいな表現ができるんだろう」ともがきながら、毎夜、斎藤さんのルポルタージュを原稿用紙に書き写していた。

 

 斎藤さんは「父よ母よ!」のほか、「妻たちの思秋期」「 燃えて尽きたし」「飛び立ちかねつ鳥にしあらねば」など多くのルポを上梓されていた。これらが僕の教科書だった。

 

 生前に一度だけお目にかかったことがある。20年以上前の話だけど。

 場所は東京・市ヶ谷の私学会館のカフェ。インタビューを申し込んだら快諾してくれた。「怖い人だろうな」と思って緊張していたが、やさしく丁寧に、後輩記者に記者の心構えから過去の取材経験までを語ってくれた。「俺って、まだまだだよ」ともおっしゃっていた。

 

 最後に斎藤さんに「夢は?」と聞いた。その答えが4文字…記・者・志・願だった。

僕は脳天をかち割られたような衝撃を受けた。斎藤さんほどの大ジャーナリストでも、なお志願しなければ「記者」にはなれない、ということなのか…。それほど「記者」への道のりは遠く、険しいのか…。 

 

 インタビューを終え、市ヶ谷の雑踏に消えていく大先輩の後姿をずっと見送った。そして、僕もいつかその背中に近づきたいと心に決めた。

 

 このときはそう、心に決めていたはずなのに…。僕はこの10数年、「ペン」を捨てていた。もう2度と真剣にペンを握ることはないと思っていた。

 

 だが、つい1か月前のことだった。「表現者」平手友梨奈の存在を知ったのは。

 彼女のパフォーマンスに心が震えた。

 

 斎藤さん、不肖の後輩ですが、お許しください。

 回り道しましたが、もう一度…。

 

 「記者志願」