高校生のとき(放送部だった)、初めて制作したラジオドキュメンタリーのタイトルが、これだった。みなさんご存知のように、女流歌人・与謝野晶子の有名な歌である。朝日新聞の声欄に投稿されていた一文で、僕はこの歌を知った。
高校2年生のとき、近くの高校で自殺者が出た。それまで幸いなことに、「自殺」なんかこれっぽちも考えたことがなかったから「どうして?」と不思議だった。まわりの同級生たちはどうなんだろうと思って、マイクと録音機を抱えて、校内でインタビューをしてまわった。
びっくりしたことに、何度も自殺未遂したと打ち明けてきた同級生の女の子がいた。ウン十年も昔の話だけど、「お風呂の洗面器にお湯をはって、手首を切るの。赤い血がポタポタと落ちていく」と生々しく証言してくれたことを、いまも覚えている。
彼女は、おとなしくてクラスで目立つ存在ではなかったけど、可憐な美少女だった。こんな美少女が手首切るなんて…と身震いしたが、1度じゃなく、数回繰り返したと続けた。
彼女が思いとどまったのは「(悲しそうにする)お母さん、お父さんの顔が浮かんだから」と言っていた。
当時、僕にとってはこの証言が衝撃的すぎて、表面だけをなぞったようなドキュメンタリーにまとめて終わった。新聞記者になってから、何回か思い出しては「なんで、もっと、もっと彼女の心の声を聞いとかなかったんだ」と自省した。
彼女とはあれから一度も会っていない。今どうしているのだろう。どうか幸せに暮らしていてほしいと思う。